ロボット業界レポート ― 歴史、主要企業、最新研究、実用事例と今後の課題
業界の定義
主に製造業で利用される金型・工作機械、産業用ロボットの製造を手がける企業を対象とする。なお、金型はプレスや鍛造、鋳造によって金属、プラスチックなどの材料を成型するための型であり、工作機械は材料を切削・切断等の加工をおこなう機械、多関節ロボットは産業用ロボットの一種で、水平方向・垂直方向にアームが動作し、必要動作をおこなうロボットのことを指す。
業界構造・主要企業
顧客に対してカスタマイズが必要な金型・多関節ロボットについては直販が中心、工作機械は一次店や代理店を介す形。近年では中古流通も活況である。
金型・工作機械・ロボット業界のバリューチェーンはそれぞれの領域において若干異なっている。
金型については、自動車メーカーや電機メーカーからの受注に応じてカスタマイズした型を構造するため、直販がオーソドックスな販売ルートである。
原料である鋼材については多種多様な種類から適切な原料を選ぶことになる。製造工程で顧客と綿密な打ち合わせを行い、最適な金型を製造する。
工作機械については、機械部品メーカーや自動車、精密機械、電気機械、輸送機械など製造業全般の顧客に対して販売をおこなっている。
流通方式はメーカー直販の場合、一次店を介す場合、代理店を介す場合の3パターンが存在する。
また、高額商品が多く耐用年数も長いことから中古工作機械マーケットも成立しており、多様な流通チャネルが構築されている。
また工作機械の生産ラインへの最適カスタマイズが必要でありメーカーの直販流通が基本である。海外への流通についても代理店を介す形、合弁事業を立ち上げる場合、
現地法人を立ち上げる場合の3パターンがあるが、特に近年では現地化が進んでいる状況にある。
ロボットの歴史と進化
ロボットの起源は古代までさかのぼりますが、産業用ロボットの登場は1960年代、アメリカの「ユニメート」が自動車工場に導入されたことに始まります。
日本でも1970年代以降、川崎重工業やファナックなどが独自のロボットを開発し、“ものづくり大国”を支える屋台骨となりました。
以降、テクノロジーとともにロボットの用途は広がり、今や医療や流通、家庭、教育、サービス分野にまで波及しています。
主要プレイヤーの動向
牧野フライス製作所は、工作機械上企業でマシニングセンタが主力事業。先端的な技術に強みを持ち、機械に加えサービス領域でも積極的に展開
工作機械上位企業で、多様な加工に対応可能なマシニングセンタが事業の柱である。コロナ禍で2020年度は大幅に減収となったが、回復は早く2022年度にはコロナ禍前の水準を超えた。2023年度の業績は、国内市場では半導体製造装置と自動車の部品加工向けが前年より減収となったものの、航空機向けが伸張した。
海外市場は中国で新エネルギー車など自動車向けの受注は好調であったが、金型向け、部品加工向けが減少し、インドでは自動車の部品加工向けが前年度並みにとどまった。アメリカでは、自動車や半導体製造装置向けが低調であったが航空機向けや医療関連は堅調に推移し、全社としては好調だった前年度と比べ売上高は微減となった。2023年度の海外売上高比率は57%で、年々高まっている。
ファナックは、NC(数値制御)装置で世界首位。工場向けIoT基盤として関連企業を巻き込んだ大コンソーシアムをネットワークし、デファクトスタンダードを狙う
工作機械の大手で、NC(数値制御)装置で世界種。2023年度の事業別売上比率はファクトリーオートメーション23%、ロボット48%、ロボマシン13%。サービス16%であり、海外売上高比率は87%である。IT事業などでの短期的な需要が多く、売上高の変動は激しいものの、同年度の営業利益率は18%と工作機械業界では高い水準を維持し、工作機械・ロボット領域で断固たる地位を築いている。
近年、他社との連携を強めており、2016年から米Cisco Systems、米Rockwell Automation、プリファード・ネットワークスなどと共同で、工場向けのIoT基盤となる「FIELD system」を開発した。この基盤では、ファナックのロボット・工作機械に搭載したセンサーからデータを取得し、AIを活用したデータ解析をおこなうことで機械の不具合の予測や機械同士の協調を実現することができる。
海外の注目トピック
欧米や中国でもロボット産業は戦略的に推進されています。
欧州:ドイツは「インダストリー4.0」の旗振り役で、産業用ロボット、協働ロボット(コボット)、スマートファクトリー化を強く推進。
スウェーデンやデンマークでは環境配慮型の農業・食品ロボット、介護用ロボットが注目されています。
北米:アメリカのボストンダイナミクス社の「Spot」や「Atlas」は、四足歩行や二足歩行ロボットの最先端として話題を集めています。
AmazonやGoogle、TeslaなどIT・自動車大手もロボット・自動運転の競争に参入し、Appleも家庭用ロボットを模索するなど注目度が高まります。
中国:「中国製造2025」政策のもと、国産ロボット企業が急成長。
工場自動化や物流ロボット、ドローン、自律型配送車の開発が目覚ましく、世界最大規模のロボット市場になりつつあります。
産業用ロボットの進化と市場
・ 自動車・エレクトロニクス分野での中心的役割
産業用ロボットは、自動車の組み立て、溶接、塗装、電子部品の精密なはんだ付けなど、製造業の現場で不可欠な存在です。
人手不足が深刻化する中、24時間稼動可能な産業用ロボットは生産性向上の切り札となっています。
・スマートファクトリーと協働ロボット
近年では、AIやIoTを活用した「スマートファクトリー」化が進行中です。
人とロボットが安全に協働できる「協働ロボット」(コボット)も普及しており、これにより従来は難しかった柔軟な作業や
多品種少量生産にも対応できるようになりました。
医療ロボットの最前線
・手術支援ロボット
医療分野でのロボット技術として最も有名なのが、手術支援ロボット「ダヴィンチ」などによるロボット支援手術です。人間では不可能な高精度な動作や、遠隔操作による手術が可能となり、患者の身体的負担軽減や手術成功率の向上が実現しています。
・リハビリテーション・福祉機器
リハビリテーション分野でもロボット技術の応用が進み、高齢者や障害者の自立支援に貢献しています。
歩行訓練用ロボットや、義手・義足などのロボティクス技術も日々進化しています。
家庭用ロボットと日常生活の変化
ロボット掃除機や芝刈りロボット、家庭内コミュニケーションロボットなど、私たちの生活をより便利で快適にする家庭用ロボットも増えています。
見守りや健康管理など、より高度な生活支援機能が期待されています。
サービスロボットの拡大
・ 飲食・小売・宿泊などさまざまな業界へ
サービスロボットは、配膳や案内、清掃といったサービス業全般に活用が広がっています。人手不足や感染対策への要請もあり、ロボットの導入による効率化・安心安全の実現が進んでいます。例として、飲食店の配膳ロボット、ビル清掃ロボット、ホテルの受付ロボットなどが普及し始めています。
・介護分野での活躍
超高齢社会を迎える日本では、見守りロボットや介護支援ロボットの需要も高まっています。
排泄介助や移乗支援など、肉体的負担の大きい作業をロボットが担うことで、介護従事者の負担軽減、有資格者不足の解消につながっています。
ロボット業界の社会的インパクト
①人手不足・高齢化社会への対応
日本の少子高齢化による労働力不足は深刻ですが、ロボットの導入によってこの課題を補う動きが加速しています。産業現場だけでなく、物流、医療、介護など幅広い業界で、ロボットによる省力化や効率化が進んでいます。
② 新たな雇用や産業の創出
ロボットによる自動化が進むことで従来の仕事がなくなる懸念もありますが、ロボットの設計・開発・メンテナンスなど新たな職種や産業の創出も生まれています。ITやハードウェア、ソフトウェアの連携が求められる中で、異分野の人材育成が鍵となっています。
③安全性と社会的受容
ロボット業界が発展する中で、機械が人に危害を及ぼさないか、プライバシーが守られるかなどの安全性問題、さらには「AI倫理」や「ロボットと人の共存」といった社会的受容の課題も
クローズアップされています。
法律やガイドライン・国際標準の整備が急務となっています。
ロボットと倫理・社会との関わり
ロボット普及が進む一方で、新たな倫理的・社会的課題も浮上しています。
- AIによる意思決定の透明性:ロボットの挙動がブラックボックスになりがちな点や、不意の事故・障害発生時の責任の所在が問題視されています。
- 監視社会化への懸念:見守りロボットや監視ドローン普及と個人情報保護のバランスが問われています。
- 雇用・労働の変化:単純作業のロボット代替による失職懸念とともに、新たな産業や職業が登場。 人間固有の創造性・判断力・コミュニケーション力がより重視される時代へ移行しつつあります。
教育とロボット
ロボット技術はSTEM教育(科学、技術、工学、数学)の推進にも不可欠です。各地で小中学校から大学にかけてロボット教材・プログラミング教育が導入され、
ロボットコンテスト(ロボカップやFIRSTロボティクス)で技術や創造力を競い合う裾野も拡大。
さらに、発達障害や学習障害を持つ子どもへの支援ツールとして、ロボットを活用する事例も増えています。
日本の独自の課題と強み
ロボットの社会実装について、日本は世界に先駆けて“人とロボットの共生社会”にチャレンジしています。一方で、現場ニーズと技術のミスマッチ、規制や法整備の遅れ、
ベンチャー企業の資金調達課題なども指摘されています。
しかし、緻密なものづくりとホスピタリティ発想を活かした「人に優しいロボット」「高齢者や弱者福祉への活用」は日本独自の強みです。
期待される新分野・職業変化
- 農業分野:自動走行トラクター、収穫ロボット、精密農業用ドローンなど。持続可能な農業やスマート農業のキープレーヤー。
- 建設・インフラ:災害現場での遠隔作業ロボット、点検・修繕ロボットによる安全性向上や効率化も進展中。
- 宇宙・深海ロボット:宇宙ステーションでの人間作業補助ロボットや、海底資源探査、災害現場救助用ロボットなど新領域へも展開拡大。
- 「ロボット共生型」職業:たとえば「ロボットインストラクター」「ロボットメンテナンス技師」「ロボットとの協業エンジニア」「ロボット倫理士」など、これまでにない職種が次々誕生しています。
今後の業界展望
自動車メーカーや電機メーカーの業績回復やグローバル化の進展に伴い業界は拡大傾向の予測。技術動向による競争ルールの変化も見逃せない
今後、顧客企業である自動車メーカーや電機メーカーの工場の海外移転が進むにつれ、グローバル競争が激しくなり、世界レベルでの提携・M&Aが起こってくる可能性があります。
特に工作機械・多関節ロボットについては上位企業の海外売上比率は60~80%を占めますが、さらなる海外比率の増加、あるいは下位プレイヤーの海外進出が進むものと思われます。
ファナックは工場向けのIoT基盤で世界標準となるべく、米国ITベンダーや国内通信系企業を中心に提携をおこなっているが、こういった取り組みが業界内でも加速する可能性があります。
また、自動車業界に限定されるが今後電気自動車の普及は予測されます。
電気自動車は通常の自動車よりも部品点数が少ないことから、その分需要が減少する可能性がある点には留意が必要です。
ロボット業界は、単なる技術革新だけでなく、社会のあり方、その構成や倫理観自体を揺るがす大きなインパクトを持った分野です。
日本は高齢化社会という大課題を追い風に、世界最先端の社会実装や人間中心型ロボットの開発を強みにできます。
今後は「人間のパートナーとしてのロボット」が当たり前になる多様性社会、その設計に参加すること自体が、私たち一人一人に問われる新しいチャレンジとなっていくでしょう。
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